第一回 「山から木を切り出す」

吉野中央木材(株)専務が送る、国産無垢材製材所のドキュメント。
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1、製材所の必需品

 製材所の中では色々な機械があり、まず代表的なものは、原木を大割りに挽いていく『送材車付帯ノコ盤』(通称「台車」)や、その大割りした材を小割していく『テーブル帯ノコ盤』(通称「テーブル」)などが、大音響を奏でながら活躍しています。
 『送材車付帯ノコ盤』と、分かりづらい名前が付いていますが、これは原木を送材車に載せて、高回転している帯ノコに押し当てて挽いていく大型な機械です。『テーブル帯ノコ盤』はもう少し小型の送材車がないバージョンで、手押しで帯ノコに木材を通していくので細かい割りができます。

←■『送材車付帯ノコ盤』です。
 直径1m近い杉の丸太を、きれいに半割りできるヘビーな機械です。










■『テーブル帯ノコ盤』です。→
 “押し手”と“引き手”が呼吸を合わせて木材を帯ノコに通していく難しい作業です。


 しかし本当に製材所の中は木を挽く音で1日中うるさく、否、大音響を奏でています。僕の家は製材工場の隣にあるので、小さい頃からこれが普通だと思っていましたが、よく考えればちょっと異常な住環境です。幸いにも夜遅くまでの作業をする事はないので、夜は虫の音が心地よい程の静けさです。昼と夜とでは大違いです。

 さてさて、まずは代表的な製材所の機械をご紹介いたしましたが、これら機械を動かして我々製材業者が仕事をするために、「これがなければ始まらない」というものがあります。それは当然材料であり、製品である『木』そのものです。 我々は原木を挽き、柱や梁などの製品を作る製造業なわけですから。
 ところで、自動車や電化製品などの主な『製造業』は色々な部品を組み合わせる“プラス”の世界だと思うのですが、我々の仕事は同じ製造業の分類なのですが、1本の原木を挽いて、どんどん取り外して行き、柱や梁などを作る、言わば“マイナス”の世界なわけです。しかも1回挽いてしまうとやり直しはできません。挽いてしまった木をくっつけて製品にする事はできないのです。この難しさは木が自然素材である証拠だと思います。自然との対話の中で製品を作っていく『製業』が我々の『製業』という事でしょうか。 少し話がそれましたが、つまり我々製材業は原木が無ければ何も始まらないわけで、今回は原木の仕入れの現場をご紹介したいと思います。

2、迫力の出材現場

 我々が原木を手に入れる手段は2つあります。
まず1つは自分が所有している山から木を切り出す。

もう1つは原木市で木を買う。

今回は山から木を切り出す様子をご紹介しましょう。
ちょうど当社の持っている山で間伐が行われ、そこから間伐材を出材する事になったので、その様子をご報告しようと思うわけです。吉野では起伏の激しい山々が多く、山から木を出すのにヘリコプターを利用することが多く、ダイナミックな出材現場が見ることができます。今月はその迫力の現場をリポートします。

 奈良県川上村東川これ「ひがしがわ」ではなく「うのがわ」と読みます。
 川上村は吉野林業の発祥の地。優れた人工造林技術を有しており、さらに豊かな土壌が良材を育てます。吉野杉、吉野桧としてブランド化されている吉野材の中でも、川上村産は特に良材が多い事で有名です。また東川は自然の宝庫。空気はどこまでも澄み切って、清らかな小川の流れにはアマゴの群れ。そしてホタルの里としても知られ、無数のホタルが飛び交う様子は、まさに自然のルミナリエ(東京ではミレナリオ)。こんな素晴らしい環境の中で育まれているわけです。吉野杉の杉林に陽光が差し込み、幻想的な雰囲気です。素晴らしい自然環境の中で吉野杉は育まれていきます。 川上村東川の50年生の杉と桧。高さは約15mになりました。作業道がついて、自動車で現場まで行くことができます。ありがたいです。 東川の山は50年生の杉と桧がすくすくと育っております。杉が8割、桧が2割。正真正銘の吉野杉と吉野桧たちです。約50年で高さ15m、直径20cmほどに成長しました

 この東川の山で昨年秋ごろに間伐を行いました。間伐とは良質な材を優先して育成していけるように間引きを行うことです。 切り倒された木は、しばらく山に置かれます。これを“葉枯らし”と呼びます。“葉枯らし”とは、伐採現場で木材を予備乾燥させる処理の事です。伐採直後の含水率が約150%、つまり木自体の重さの1.5倍もの水分を含んでおり、出材作業に多大なコストと労力が掛かります。そのため、伐採現場で根株を切り離したら、枝葉を付けたまま穂先を山側に向かって倒します。枝葉を通して水分を蒸発させ、自然乾燥させるわけです。この葉枯らしにより、黒芯材(赤味部分が黒い材)の渋味が抜けて、吉野材の特徴である淡紅色になるなど、出材コストの低減の他にもいろいろメリットがあるようです。

 約半年が経過し、含水率は50%程度にまで下がりました。さて、ここから木を出していくわけですが、15m程の長さであっても、当然の事ながら先の方は細く、使える部分を切る必要があります。3〜4mごとに切られる事が多いです。この作業は「玉切り」と呼ばれ、玉切りされた木は株のほうから元玉、2番玉、3番玉…、末玉と言われます。元玉と2番玉が高値で取引される事が多いそうです。これは株に近いほうが節の出る確率が少ないからです。 
 3〜4mごとに小切りされた杉と桧は7〜8本毎にワイヤーでくくられます。ヘリコプターで吊り上げるためです。
 ヘリコプターによる出材はコストが高いため、全国的には少ないようですが、吉野では山の起伏が激しく、高低差も大きい為、ヘリコプターが重宝されます。またトラックが通れるような道を付けるくらいなら、その土地に木を植えた方がいいという考えもあったようで、林道や作業道に整備が進まなかったということもあるようです。
 一昔前まではヘリコプターを使っても十分採算が取れるくらいに、吉野杉・吉野桧の価値は高かったというわけです。現在では、今回のような50年生の間伐材は出材される事は少なく、山にそのまま捨てられる事が多いようです。今回の出材でも全ての間伐材が出材されるわけではなく、一部は山に放置されます。つまり売り上げ以上に出材コストがかかるのです。収支で損をしない範囲でしか出材ができないわけです。50年かけて育った木が日の目を見ないのは本当に残念ですが、これはなかなか難しい問題です

 さて、いよいよヘリコプターの出動です。地上にいるオペレーターさんがライトを照らして、ヘリコプターに場所を知らせます。ポイントが定まると、空中で停止し、杉と桧の枝葉が茂る隙間を縫って、ワイヤーを降ろします。そして、フックに引っ掛けて吊り上げられて行きます。本当にあっという間の出来事です。ここからはその模様を臨場感溢れる連続写真タッチでご覧ください・・・(笑)



←■ヘリコプターが出動します。


←■ヘリコプターが杉林の上を駆けます。
 枝葉が茂る杉林の隙間にワイヤーを落とします。


←■地上のオペレーターさんがライトを使って、ポイントを知らせています。 写真のピントが合ってなくてすいません。結構な風圧なので…。


←■ヘリからワイヤーが降りてきました。


←■あっと言う間に吊り上げられていきます。すごいパワー。
 場所は山から程近い土場に移ります。
コストと効率性を考えた時、ヘリコプターが飛ぶ距離は出来るだけ短い方が良いので、山中の比較的平坦な場所に土場が作られます。

 ヘリコプターが土場の上でワイヤーを切り離し、木材を積んで行きます。僕自身、こんな間近でヘリコプターを見たことがなかったので、ちょっと感激でした。しかし、すごいパワーです。一度に約1t弱の荷物を吊り上げて、輸送できるそうです。テレビや映画でよくある風圧も少し体感できました。


←■近くの広場に降ろされました。ここからはトラックに積み込まれ、原木市場へと運ばれて行きます。)

3、原木市場へ出荷

 そして、杉と桧たちは原木市場に出荷されます。原木市場の職員さんがセリを行いやすいように並べていきます。この時、原木のサイズや状態の善し悪しなどを見て、何本かのセットに分けて並べられます。そして断面には刻印が押されます。

↑■断面には刻印が押されます。
石橋の山の木なのでマルイシの刻印です。

これがないと、どこの誰のものか分からなくなってしまうので重要です。この刻印を見て、ここの山の木は良材が多い…など購入する時の判断のひとつにもなるようです。

 そしていよいよセリが始まります。
山からずっと見てきた木なので、感慨もひとしおです。いつもの仕入れの時は、良材を安く買う事が大前提ですが、今回ばかりは高値でセリ落とされる事を願います。少しでも高く買って貰いたいというのは、商売というだけでなく、娘を嫁に出す親の心境みたいなものでしょうか。 今回の原木市の結果としては、昨今の原木価格の低迷の中では健闘したようです。しかし最盛期から見ると、半値以下の大暴落。なんとか出材費用は回収できたかどうかのライン。 こんな現状だと木を出しても損だからと、そのうちどこからも木が出てこなくなるのでは…と心配になってしまいます。 現在、全国的な問題として、木材需要の低迷による山林の荒廃、そして山仕事の後継者不足などの多くの問題を林業は抱えています。これは吉野地方でも例外ではありません。 今回、山からの出材に接して、山林の育成に携わる多くの人々の知恵と労力を実感しました。素晴らしい自然環境の中で育まれる吉野杉・吉野桧、これは決して絶やしてはいけないものです。自然素材として脚光を浴びる国産無垢材ですが、これは何十年、何百年の歳月がもたらした恩恵であることを忘れてはいけないと思います。これまでの継続を今後も続ける。木の素晴らしさを伝え、需要を創出し続ける。これは我々製材所の責任、使命であるとも思います。 ちょっと大それた事を書いてしまいましたが、あまり深く考えすぎても何も始まりません。とにかく「木のある生活は気持ちいい」って事です。 そのため僕達は「ほんまもんの木材を作り続ける」って事です。 そして「一人でも多くの人に使ってもらうために、いろいろ工夫する」って事です。


 さぁて次回は「原木市場の様子」や「原木仕入れの目利き術」をご紹介したいと思います。 つづく

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