第二回 「原木市場の目利き術」

吉野中央木材(株)専務が送る、国産無垢材製材所のドキュメント。
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1、原木市とは一体なに?

 私達製材業者が原木を手に入れる手段として、一番オーソドックスな手段と言える「原木市で木を買う」、仕入れの模様をご報告します。

 原木市とは何でしょうか。
市場と聞いてイメージするのは、東京の築地市場などの魚介類や野菜類のセリを行う場所ですが、原木市場も同じです。杉や桧などがセリにかけられていくわけです。 吉野地方には大きな原木市場がいくつもあります。自動車で30分圏内に10市場。さすが日本有数の木材産地です。多くの市場では月に2回ほど市が開かれます。ですから日曜祝日を除けば、ほぼ毎日どこかで市が開催されているわけです。

 さて、原木はどこから集まってくるのでしょうか。
やはり吉野地方のものが多いようです。吉野の中でも特に良い木が多い産地として、川上村産や東吉野村産が挙げられます。年間降水量や平均気温などの気候条件や、生育に適した土壌などが要因のようです。同じ杉、桧でも山が違えば、驚く程違いが出てきます。魚や野菜が育つ場所や育て方によって味が違ってくるように、材木も質が違ってくるわけです。吉野産の杉、桧がブランド化されているのは、何も名前だけではなく、耐久性に優れ、色艶が良く、曲がりが少ないなどの品質が優れているからなのです。

 さて、1回の市で取引される原木量は杉と桧を合わせて、多い時で5千石、約1400立mにもなります。これは一般的な2階建て木造住宅のなんと50棟分以上に当たります。
1回の市での売上金額は5千万円に上ります。しかしピーク時であった平成8年付近と比較すると原木量は約半分、売上金額も3分の1程度になったそうです。何とも寂しい現実です。

2、原木市のセリを体験!

 僕も原木市場でのセリに参加しました。 参加すると言っても、駆け出しの僕はとりあえず見学。 今回は吉野でも規模の大きい吉野木材協同組合連合会の原木市に行ってきました。

 原木市の様子です。木の上に立っているのが“振り子”さんです。2月の寒い日。ちょっと活気がないかな…。■→


←■知る人ぞ知る弊社杉担当の上北部長です。原木市では番号入りの帽子を被ります。 ちなみに吉野中央木材は27番です。


 どこの原木市場でも同じセリのスタイルのようで、“振り子”と呼ばれる市場の職員さんが、原木を1本ずつセリにかけて行きます。振り子さんの「さあ、こちら5万から〜」という甲高い掛け声に、我々買い方は購入の意志を伝えます。 ライバルがいなければ落札というわけです。 ライバルがいれば、価格が上がっていくわけです。 当たり前ですが…。 購入の意思の伝え方は軽く手を上げる感じです。 振り子さんの掛け声にすばやく反応して、サッと軽く手を上げます。 手を上げるというか、手首を少し曲げる程度のような感じです。 普段はあまり使わないそうですが、指を動かして金額を振り子さんに伝える事もあるそうです。 それではここで木材業界の指数字をご紹介致しましょう。
これは「1」です。まあ普通です。
これは「2」です。ピースです。
これは「3」です。真ん中3本使います。
これは「4」です。これも普通ですね。
これは「5」です。当たり前ですよね。
ここからが本番。「6」ですよ!
これが「7」なんです。
これが「8」! ズキューン!!
これが「9」! マニアの世界に入りましたよ!
そして「10」。 グッドラック!
 さて、この金額ですが、1本単位での金額ではなく、材積と呼ばれる立方メートルあたりの単価なのです。ちょっとややこしいのですが、木材の世界では原木でも製品でも材積単価がなぜか多く、一見すると「おお!結構すごい値段!」と思うのですが、実はそうではないのです。 例えば吉野杉の梁で、長さ4m×幅240mm×厚120mmの一等材の場合(この“一等材”という等級がまたややこしいのですが、これはまたの機会に…)、立方メートル単価では10万円なんですが、材積は0.1152立方メートルなので、1本あたりは11,520円になるわけです。 僕も初めて見積書を見た時に「吉野杉ってやっぱり高いんだなぁ、こりゃうちの会社、結構儲かっているなぁ」と思ったものの、実はそうじゃないとすぐに分かって、ズッコケました。 ちなみに、材木業界では単位である「立方メートル」を、「りゅうべ」と読みます。 例えば3立方メートルは「3りゅうべ」と呼びます。 なぜかはよくわかりません。慣習でしょうか? 

3、原木市場の目利き術

 さて、話を原木市に戻します。 木を買うにあたり、何を目安に木を買えばよいのでしょうか。吉野中央木材の杉の責任者である上北部長に色々教えて頂きました。
 
 まず、断面を見ます。 ここの木目が細かいこと。木目が細かいということは、木がしっかりしている証なのです。特に芯の方の木目の詰まり方が重要だそうです。次にきれいな円形であること。木目が円形でないという事は、でこぼこな木であるという事で、使えない部分が多い為です。これを「木取りが悪い」と言います。また、この断面の色の具合や、木目の揺れ具合を見て、木が腐ってないか?異常はないか?を判断します。(この“異常”ですが、奥が深いです。これもまた後ほど…) さらに木全体の姿を見ます。 やはり曲がりの少ないものを選びます。 曲がっている木は木取りが悪いからです。 木の表皮も見ます。 枝の跡があるかないかを見るのです。 伐採した時に切り落とした枝の跡は僕でもすぐに分かりますが、表皮の残る節の形を見て、“枝打ち”がいつ頃行われたかを推測するのは経験の成せる技です。 枝打ちとはご存知の方も多いかと思いますが、木の育成中に枝を切り落とす作業の事です。 枝打ちの時期が早ければ、節は芯の付近でなければ出てきません。 つまり製品を取った時にその表面に節が出る確率が少なくなるわけです。 枝打ちの時期が遅ければ、表皮近くで節が出てくるので、製品の表面に節が出やすくなるのです。 木材の世界では節の少ないものが良いものとされているので、なるべく節が少なそうな原木を選ぶわけです。


 原木市場では木の断面に数字が書かれています。青字の「34」はこの木の直径です。一番狭い部分で直径が決められます。材積を出す根拠になります。白地の「60」と「27」は、立方メートル単価60,000円で買い方番号「27」の吉野中央木材が競り落としたという意味です。■→



 さらにさらに、木の表皮には驚くべき情報が隠されています。 それは「シナ」と呼ばれる“異常”です。強風などで木がしなった(曲がった)時に、曲がって圧縮した側(伸びた側ではないのです)の木の繊維が切れてしまい、木は自分でその傷を修復するのですが、その手術跡が残ってしまうのです。これをシナと呼び嫌われてしまいます。 ですが、木が自分で修復した後なのですから、なんというか生命力の凄さを僕は感じます。このシナは表皮にも現れますが、それは表皮の中に水平方向に筋が入るのです。しかし簡単には分かりません。


 中央部分に白っぽい縦筋が見えます。これが「シナ」です(これは桧のシナです)。 写真が上手く撮れていなくてすみません。 ちょっと分かりづらいです。どうですか? 手術の跡っぽいでしょ?■→





■原木市場でのひとコマ。手前と奥側で何か違うと思いませんか。そうです。皮が剥かれているもの、いないものの違いです。杉は皮が剥かれているほうが水分が飛びやすく、赤味の色合いが綺麗になります。ですが、水分が飛びすぎると内部で日割れを起こすので注意が必要です。本文でご紹介した「シナ」の判断基準は皮にあると書きました。皮がなかったら分からないじゃないか!?と思いますが、幸い「シナ」は桧に多く、杉には比較的少ないそうです。これは杉の柔軟性が関係しているようです。




 原木市に行ってみて思ったのは、職人というか、プロフェッショナルという事です。 木を買ってきて、寸法通り挽いているだけではないのです。 すごいなぁ、職人芸だわ、これは…。 僕も頑張って早く覚えないとなぁと痛感するのでした。

 次回は木材業界の根幹でもある「木材製品の等級」を中心に勉強したいと思います。 つづく

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