第9回 「木材の乾燥」

吉野中央木材(株)専務が送る、国産無垢材製材所のドキュメント。
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1、なぜ木材を乾燥させる?

 今回は「木材の乾燥」について、勉強をしてみたいと思います。
木材製品の品質を決める要素は、“木自体が持つ材質”が基本になるのは当然なのですが、“乾燥の度合い”が重要なファクターとなります。 木材の乾燥は科学的に様々な研究がされていますが、今回は当社のこれまでの経験を踏まえ、製材所の観点から見た「木材の乾燥」というものを探ってみたいと思います。

 まず、「木を乾燥させる」とは一体どういう事でしょうか?

 山に生えている木(立ち木と呼びます)は、水を豊富に含んでいます。 杉と桧の場合は、木材自体の約1.5倍の水分を含んでいます。 木材に含まれる水分量を表す指標として、「含水率」があり、立ち木の場合だと150%という事になります。 一般に「乾燥材」とされる基準は、含水率20%とされています。 150%近い状態から20%まで落として行く工程が、乾燥作業に当ります。

 原木から製材したばかりの木材製品は、まだまだ水分をたくさん含んでおり、「生材(なまざい)」と呼ばれる状態です。 建築資材として乾燥材が求められる理由は、この生材は乾燥が進むにつれ、変形や収縮が起こってしまい、建築構造上、不具合が出るからです。

 乾燥するという事は、木材から水分が抜けるという事で、野菜や魚でも保存用に乾燥させると縮みますが、これと同様の現象が木材にも起きるわけです。 木材は野菜や魚ほど縮むことはありませんが、乾燥による変形・収縮で、曲り・反り・割れが生じる事になるので、生材の状態のまま使用して住宅を建築した場合には、後に自然乾燥してきた際、この変形や収縮の度合いが大きい為に、家の構造に歪みが起きる可能性が高くなります。 だから乾燥材が必要になるわけです。
←■個体差はあるのですが、ひどいものは乾燥後にここまで曲る事があります。


2、含水率

 それでは、木材乾燥の世界に入って行きたいと思います。

 まず、木材の乾燥度を見る基準になる「含水率」についてです。
木材の含水率は、“測定時点の木内部の水分量”を“木が完全に水分を失った状態の重量”で割った数値です。  つまり、測定時点の全重量を測り、次にその木材の水分がゼロになるまで乾燥させ、その重量を測ります。 その差が水分量に当ります。その水分量を完全乾燥状態の重量で割るという事です。この方法を「全乾法」と呼び、最も正確な数値が算出できます。 しかし現実の問題としては、全乾法は研究施設の測定方法であり、一つ一つの製品に使用する事は不可能な為、製材所などでは別の方法で測定をしています。

 当社で使用している測定方法は、「高周波式」と呼ばれるものです。
高周波式含水率計は、木内部の水分量に応じて木材の誘電率が低下する仕組みを利用しており、木材の表面から20oの深さまでの含水率を測定するのですが、断面全体の平均値に最も近いと言われています。

←■これらが高周波式含水率計です。
←■先端の丸まったスプリング部分を、木材に当てて計測します。
←■フローリングのように薄い材を計測する時は注意が必要です。
 高周波式は表面から20mmの水分を計測するため、木材を通り越して空気中の水分まで計測してしまう為です。 この場合は、材を何枚か重ねて計測したり工夫します。
 この含水率が木材乾燥の基準になりますが、木材は天然素材で個体差が大きく、一概に数値だけで判断する事はできません。 持ち上げた時の重量感や木肌の感触によって判断する場合もあります。
 また、含水率は局所的な数値なので、木材製品全体を示しているわけではありません。 3mの柱でも端と中央では含水率が異なる状態があるわけです。 木材の内部の「水たまり」と考えると分かりやすいのですが、これがあると部分的に変形や収縮が起きてしまう可能性が高いです。 これは「水分傾斜」と呼ばれ、水分傾斜を平坦にする必要があるわけです。


3、木材乾燥の方法
 つづいて、木材乾燥の方法について見て行きたいと思います。

 乾燥方法には大きく二種類に分類されます。天然乾燥と人工乾燥です。 天然乾燥はその名の通り、自然状態で乾燥を行うことです。天然乾燥を行った木材は「天乾(てんかん)材」や「AD(AirDry)材」と呼ばれています。

 天然乾燥の方法を見て行きましょう。 まず基本となるのが、「桟積み(さんづみ)」で、木材と桟を交互に積み上げます。 桟の種類は木材の大きさによって変えます。風の通り道を邪魔しないように整然と積み上げていく事が重要です。この桟積みは人工乾燥でも同様に重要な工程です。 桟の位置がずれると、風が通りにくいだけでなく、荷重により木材が曲ってしまったりします。
■桟積みをした山です。左はフローリングなどの板材用。右は梁材用です。 一段ごときっちり計って桟を入れてあるのがわかります。
←■乾燥する材に応じて、桟を使い分けます。 これら全て、端材を利用した手作り品です。 指をかけれるようにとかフォークリフトのツメが入るようにとか、長すぎず短すぎずとかで、けっこうこだわりの道具だったりします。
←■この桟は柱や土台などの角材を桟積みする時に使います。
寸法に応じて仕切られているので、楽に 一定の間隔を作る事ができます。
 桟積みをした状態で、屋外で乾燥をさせていきます。 乾燥場所に向いているのは、風がよく通り、太陽がよく当る場所です。 天然乾燥のメカニズムは、太陽熱で熱せられた木材から水分が蒸発して、それを風が運び去るようなイメージです。
 ちょっと分かりにくい写真ですが、弊社工場の裏山から撮りました。
真ん中に吉野川が横切っています。 この川に沿って煙が右方向に流れているのが見て取れますが、この川 から吹き抜ける冬場の乾いた風が木材の乾燥には良いようです。■→
 屋外での乾燥では、風の通りや日当たりが良いのですが、雨に濡れてしまいます。 木材を雨水に濡らす事は乾燥と反対のような気もするのですが、これまでの経験では、適度な湿気を加えながら乾燥させた方がよく乾くように感じます。 また杉の場合は、雨水に濡らした方が、赤味の色合いが綺麗に仕上がるように思います。 雨水には濡らさずに、風通しの良い屋内で乾燥させる方がよい、という考え方もあり、それぞれのメーカーにより、様々な自然乾燥方法があるようです。
←■雨に打たれる杉の梁材。雨水に濡れながら、乾燥が進んでいきます。
 天然乾燥は乾燥にかかる時間が長く、平均して半年から一年くらいが目安となります。断面の大きな材は2年も3年も必要なものもあります。逆に、木材は自然の素材なので個体差が大きく、1〜3ヶ月で水分が抜けてしまうものあります。
←■1年かけて天然乾燥した杉の梁材です。 屋外にあった為、日焼けとホコリで表面は真っ黒です。 この状態では、まさか化粧材になるように見えません。 ところが・・・・↓
←■表面を数ミリ挽き直してみると、中から吉野杉らしい鮮やかな赤味が出てきました。 さらにカンナをかけるとピカピカの仕上がりになり、化粧用材として十分見れます。
 続いて、人工乾燥の方法を探ってみましょう。
人工乾燥はその名の通り、人工的に温度を上げて、水分を抜く方法です。人工乾燥をした材を「人乾(じんかん)材」や「KD(KilnDry)材」と呼びます。

 人工乾燥には何種類かの方法があります。 当社で行っているのは、「低温除湿式」と呼ばれる方法です。

 低温除湿式乾燥機の仕組みをご紹介しましょう。
乾燥庫内に設置した「温水コイル」または「電熱コイル」で庫内の温度を45℃くらいまで上げ、庫内の風向きを一定方向にして循環させます。温められた木材からは水分が蒸発し、乾燥が進みます。しかし、木材から出た水分により庫内の湿度が上昇し、乾燥の促進を妨げてしまいます。 庫内の湿度は最大100%まで上昇します。 そこで除湿機を利用して、庫内の湿度を落とし、乾燥効率を高めます。最終的に庫内の湿度は30%程度にまで下がります。 これが「低温」と「除湿」を組み合わせた乾燥方法で、乾燥期間は約1週間、含水率は桧の柱で18%前後、桧フローリング材で15%前後、杉の柱で20〜30%、杉フローリング材で15〜22%まで下げる事ができます。
 当社で使用している低温除湿乾燥機です。これは4mまでの柱や土台などの角類専用となっています。 天井のダクトから温風が出ます。■→
 人工乾燥には、この他に「高温式」「高周波式」などの方法があります。
高温式は庫内温度を100〜130℃まで上昇させ、木材の細胞を破裂させて水分を抜く仕組みで、高周波式は電子レンジのような仕組みで乾燥させるそうです。 これらは低温除湿式に比べると、高い乾燥効果が得られますが、内部割れや変色などのマイナス面もあるようです。


 それでは、天然乾燥と人工乾燥のどちらが良いのでしょうか。 これはなかなか難しい問題です。 木にストレスを与えずに水分を抜いていくのは、やはり天然乾燥の方だと思いますが、人工乾燥と比較すると、乾燥に要する期間が長く、また乾燥が甘くなります。

 平衡含水率というものがあります。 これは含水率が最終的に安定する状態を指し、約11〜12%と言われています。 これは場所や季節によって異なり、沖縄と北海道、夏と冬では数値が変わるのですが、この平衡含水率に落ち着くと、木材は乾燥による変化や収縮を起こさなくなります。 この平衡含水率に達するまでに要する時間は、生材の状態から約8年という説があります。 個体差はあるのですが、最初の1年間くらいが最も変化と収縮が起こりやすい期間です。

 人工乾燥で低温除湿式の場合、一週間の乾燥で天然乾燥の2年分に相当する含水率の低下が望めます。 含水率の低下や変化・収縮の予防を考えれば、人工乾燥の方が優れているように思えます。 しかし、人工乾燥の場合には木の樹液が抜けやすく、天然乾燥に比べてツヤが少なくなり、耐久性も多少落ちると思われます。 また、大きな材は人工乾燥では中まで乾燥は進まず、じっくりと時間をかけて天然乾燥をする必要があります。
←■低温除湿式乾燥機の内部です。桧の精油成分が蒸発した後に出た樹液のカスが付着しています。 この乾燥機は20年も使っているので、壁一面が茶色く染まっています。
 昔であれば、木造住宅が当たり前の時代であり、上棟してから半年以上も土壁を塗ったりしながら、骨組みのまま置いていたので、その間に歪みや狂いが出た場合には調整が可能な為、完全な乾燥材ではなく生材に近いものでも十分だったそうです。 現在では木造住宅が減り、また施工にもスピードが求められています。木材の需要も必要な時に必要なだけ、というスタイルが主流です。人工乾燥が必要になるのは、当然の結果のようにも思えます。

 杉と桧によっても違ってきます。 桧の場合は天然乾燥でも人工乾燥でも大差ないのですが、杉の場合は割れと変色の問題が出てきます。 杉は個体差が大きく一概には言えませんが、割れが入りやすく、木口の割れがひどい場合には4m材が3m用としか使えなくなる場合があります。 また渋味が表面に溜まり、赤味の部分が表面から3〜10o程はチョコレートのような濃赤色になってしまい、色合いが悪くなってしまいます。杉は天然乾燥の方が向いているのかもしれません。
 フローリング加工をした杉です。 右側は淡いピンク色が美しいのですが、左側はチョコレートのような色です。中に入り込んだ渋味を取りきる事ができませんでした。■→
 天然乾燥と人工乾燥の良し悪しですが、一概には言えず、木の性質や用途に応じて、うまく使い分けるのが賢明なのかな…と思います。

 天然乾燥と人工乾燥について見てきましたが、これらは製材した後の乾燥処理です。 製材以前、つまり“山での伐採時”にも乾燥が関係してきます。それは「葉枯らし乾燥」と「新月伐採」です。

 葉枯らし乾燥は当連載で以前にもご紹介しましたが、伐採後に枝葉をつけたままで山側に倒して乾燥させる方法です。 乾燥が進み、軽くなる事で出材コスト低減につながり、さらに黒芯材(赤味部分が黒い材)の渋味が抜けて、吉野材の特徴である淡紅色になるメリットがあります。
 ←■山林での、“葉枯らし”と呼ばれる予備乾燥を施している様子です。 
 新月伐採はその名の通り、新月の日に伐採を行う事です。 ここ吉野では昔から「木は闇夜に倒す」と呼ばれ、月が完全に欠け、闇夜となる日前後の昼間に伐採するのが良いとされてきました。科学的根拠の有無は分かりませんが、新月伐採をすると、木に虫が付きにくく、傷みが入りにくく、乾きやすいと考えられてきました。 月の引力などが影響しているのでしょうか。 なかなか神秘的な話なのですが、あながち迷信とは言い切れないようです。


4、乾燥のテクニック
 乾燥についての大まかな流れをご説明しましたが、ここで細かいテクニックもご紹介したいと思います。

 まずは「背割り」です。 この連載でも何度か登場したフレーズですが、芯持ちの柱の場合には背割りが入れられます。背割りを入れて芯を抜く事で、曲りや反りを防ぎます。また内部まで乾燥を促進する効果もあります。
 これが背割りです。 角材の芯から細かな干割れが見て取れますが、生材のうちにこの芯に向かってあらかじめ写真のように割りを入れて、応力の抜ける箇所を作っておくことにより、他部分にまでヒビが入らないように予防しておく技術です■→
 「割れ止め」というものもあります。 乾燥による収縮の影響で、表面に割れが出る場合が多いのですが、これを抑える為の処置です。 水溶性のロウのようなものを塗るのですが、割れが入りやすい木口の周辺部や、表面の中心を木目に沿って塗ります。 大きな材の場合は収縮の力が大きいので、固着力の強い木工用ボンドを塗ったりする場合もあります。
←■木口は特に割れが入りやすいので、念入りに塗ります。 ヒビ割れは木目に沿って入ってきますので、ヒビ割れの先端である木口を先回りして固めておくのです。 
←■大きな材は木口だけでなく、木目に沿って中心部も塗ります。 木がヒビ割れしようとする応力が最もかかる部分だからです。
 「矢」を打つ場合もあります。 大きな断面の柱の場合は収縮の力が大きいので、背割りと割れ止めにプラスして、背割りに矢を打つ事があります。 端材で作った「矢」を背割りに打ち込み、あらかじめ内部に割れを作る事で、収縮力を逃がしてやります。
←■これが矢と呼んでいるクサビ状の道具です。 これも端材を利用した手作りで、大きさや形にノウハウがあります。 基本、打ち込む角材の大きさによって、矢の大きさも変えていきます。
←■背割りに矢を打ち込んで行きます。 これにもノウハウがあり、大きな木槌で様子をみながらちょっとづつ叩き込んでいきます。 時々耳を澄ましてピキピキッっといった、微妙に内部で木がひび割れる音を聞きわけながら、背割りを広げる量を調整します。 


 木材の乾燥は奥が深く、製材所にとって正に永遠のテーマです。
今回はちょっと背伸びした部分もあったのですが、避けては通れない分野なので取り上げてみました。内容的には不十分な点が多く、これからの連載の中でも補足をして行きたいと思います。

次回は、木材の加工について見て行きたいと思います。お楽しみに! つづく


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