第7回 「木取りの基本」

吉野中央木材(株)専務が送る、国産無垢材製材所のドキュメント。
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1、“歩留まり”を良くする

 今回のテーマは「木取り」。ついに製材所の本丸に突撃!です。
 木取りとは、1本の原木を製材する時にどのようにノコギリを入れて、どんな製品を取るか…という事です。木取りをする時の指針の一つが、一般的によく使われている言葉で「歩留まりを良くする」というものです。

 歩留まりが良いという事は、1本の原木から如何に無駄なく製品を取れるかという事です。この“無駄なく”という意味には、1本の原木から製品にならない部分を出さないようにするという「材積」の観点から見られる事が多いですが、もう一つ大事な点があります。それは「品質」という意味での歩留まりを良くするという事で、1本の原木の性能を最大限に引き出すような木取りをする事です。

 木は1本1本個性があり、全く同じものはありませんので、木取りの方法も一概には言えない所があるのですが、一般的によくあるパターンをご紹介しようと思います。


2、“木表”と“木裏”

杉の原木を番台から送材車に転がして移動しているところ それでは木取りの模様を見て行きたいと思います。
実際に「送材車付帯ノコ盤」で原木を製材するバーチャル体験をして行きましょう。

番台に載っている原木を送材車に移動させ、送材車の上で原木を回しながら、帯ノコを入れる箇所を探っていきます。
柱を取るか、桁・梁を取るか、カウンター盤を取るか……などなど色々ありますが、最初に考えなければならない事は、「木表」と「木裏」の見極めるという事です。

 写真は、杉の原木を番台から送材車に転がして移しているところです。
 ゴロンッ!と転がって、近くにいると地響きを感じるぐらいです。■→
山の斜面に立っている杉 木表と木裏とは一体どういう事なのでしょうか?
木や山に立っている状態の時を想像してみて下さい。木の山側の部分を木表(きおもて)、木の谷側の部分を木裏(きうら)と私達は呼びます。
 山の中での木は垂直に伸びているように見えますが、根元の方では角度を調整するために曲がっています。この谷側の根元の部分に負担がかかり、冬目が大きくなる「アテ」という現象が起こります(詳しくは第3回をご参照下さい)。木は何十年、何百年の間、その姿勢を維持しているわけですから、自然に曲ろうという力が木裏側に発生するわけです。製材をする時には、この応力に気を付けなければなりません。

↑■斜面に立っている杉です。 丸太を挽き出した際、山側が木表、谷側が木裏になります。

“アテ”で曲がった挽き出し直後の杉材

 丸太の状態から、初めてノコを入れる際は、原則として木表を上にして、木横から挽き落としていていく事になり、初断で木裏の側から帯ノコを入れないのが基本となります。
 なぜかというと、木裏から挽き落としていくと、木に染み付いた応力により木表側に曲るのです。 挽かれた部分が元に戻るかのように曲り、製材がやりにくいだけでなく、帯ノコを挟んでしまう危険性がある為、最悪の場合には帯ノコ盤に大きな圧力がかかり、損壊や故障の原因となってしまいます。

 アテの部分です。
まっすぐに挽き落とした直後に、こんなに曲ってしまいました。■→
台車上で木取りを考えているところ

 木表を上にして、木横から帯ノコを入れていくのが通常の製材方法です。
木表を上にすると木の曲りが少ないので、中心を取りやすいというのが理由です。どのような製品でも中心が取れていないと見た目にも悪いですし、木自体のバランスが悪くなり、反りや曲がりの原因になるなど、品質面にも問題が出ます。


←■写真で分かりやすくお見せするため、これはちょっと極端な例ですが、反りの内側である、木表を上にします。 水色ペンキで描かれた線が、木表・木裏の方向になってます。
杉丸太の木横を挽くところ  では帯ノコ盤に通して行きましょう。
まず木表を上にし、木横を挽いて落とし、次にひっくり返して木裏を上にし、反対側の木横を挽き落とします。

 ←■木表を上にして、木横から取っていきます。
両木横を落として太鼓になったところ  左右の木横をひっくり返して挽いていきます。
木横が落とされたこの状態は、いわゆる「太鼓」の状態です。残ったのが木表と木裏です。

 ←■ひっくり返して、逆側の木横を取ります。
 木横が無くなれば、次に落とすのは、木表と木裏です。
この時、アテのほとんど無い直材であれば、木表・木裏のどちらから挽き落としても大丈夫ですが、アテが強く出ている木の場合は、木裏から先に挽き落とすのがセオリーです。 木裏を落とすことにより、あえて先に材を反らせて様子を窺い、次に採る材の寸法・形状を判断します。 
 木の状態を見極め、かかっている応力を抜いていき、最良の部材を採取していきます。 この辺り、職人的な経験と勘が最も頼りになってくるところです。
最後の木表を落としているところ  最後に木表・木裏を落とし、角材が取れました。
このような挽き方を「太鼓挽き」と呼びます。

 ←■木表・木裏を落として、丸太が角材になりました。
挽き出された杉の桁梁材。  巧みにアテ部分などを落とし、芯を中心とした角材を職人的な経験と勘で最良になるよう挽き出します。

 ←■赤味のきれいな杉の梁が取れました。
 挽き落とされた部分は「背板(せいた)」や「三日月(みかづき)」と呼ばれます。 切り落とされた部分の大きさにより区別され、小さい(薄い)ものを背板、大きい(厚い)ものを三日月と言います。 この部分からはフローリングやパネリング、集成材用の化粧貼り用の単板、鴨居や敷居などを取ります。このような建材が取れない場合は、割り箸の材料となります。 
 
 これが背板、三日月です。■→
背板

チップ  建材や割り箸の材料にもならないような端材はチップとして紙の原料となり、また帯ノコ盤で挽く時に出る木屑は練炭などの燃料に加工され、捨てる部分が全くありません。

 ちなみに、この木屑のことを私達は何故か“ひっこ”と読んでいます。木を挽(ひ)いた時に出る粉(こ)、だから“ひっこ”なのだと思います。製材をすると、全身“ひっこ”だらけになります。夏の暑い日なんかは、汗と“ひっこ”が絡みあって、なんともスゴイ事になります。

←■これがチップ。紙の原料になります。


3、芯去りと芯持ち

 木取りについて、もう少し細かく見て行きたいと思います。
杉丸太断面  まずは「芯去り」と「芯持ち」です。
芯去りと芯持ちの「芯」とは木の中心のことです。年輪の中心が芯です。この芯を入れて製材するか、芯を外して製材するかで全く違った製品と
なります。

 ←■原木の芯を含んだ材を「芯持ち材」、外した材を「芯去り材」と言います。
 大きな特徴は、芯が残っている「芯持ち材」の方が強く、芯が外れている「芯去り材」の方が暴れにくいという事です。 芯は骨みたいなもので、骨が残っている分強く、芯持ち材は柱などの構造材によく使われます。
 乾燥中の「芯持ち」の梁です。 
強度重視の材は芯持ちにする事が多いのは、芯を含むことで、大きい材が採りやすくなるのも、その理由のひとつです。

 芯から外側に向かって干割れが入ってきてるのがわかります。■→
芯持ちの桁・梁
 芯去り材は丸太の芯を外した部分から採る為、芯去りで大きな材を採ろうとすると、必然的に大きな原木(樹齢数百年単位!)が必要になります。 そのため芯去り材は高級材として扱われます。 
 芯去り材は暴れにくいというのが特徴ですが、もう一つ重要な要素があります。それは木目の美しさです。 木目が詰まり、真っ直ぐに伸びる「柾目」と呼ばれるものが出るのです。
芯去りの材  乾燥中の「芯去り」の柱です。
芯を落とした材は割れにくく、柾目がはっきり出て美しい材が採れやすいため、造作材に多く用いられます。

 ←■芯が取れているのが分かります。 割れなども見受けられません。
 芯が残っていると、乾燥が進むにつれて干割れが入る可能性が高いので、「背割り」を入れて使う事が多いです。 背割りとは、柱の一面に断面の約半分ほどの割りを入れる事で、干割れを防ぐだけでなく、乾燥が進みやすいという利点もあります。
 これが「背割り」の入った柱材です。
基本的には柱にだけ背割りを入れます。 梁などの横架材の場合には横を支える力が落ちる為に、背割りはあまり入れません。 そのため、横架材の表面には大なり小なり干割れが入ります。
 
 下面から芯に向かって入った切れ込みが“背割り”です。■→
背割り入りの柱材


4、“板目”と“柾目”

 板目(いため)は年輪に対して水平方向にノコギリを入れると出てくる模様です。対して、柾目(まさめ)は年輪に対して垂直方向にノコギリを入れると出てきます。1本の同じ木から異なるデザインの木材が取れるというのが何とも不思議な感じがします。
 
 板目は木材の模様の一般的なイメージではないでしょうか。僕は最初の頃、板目と柾目の区別が分からなかったので、おそらく一般の方も分からないのでないかと思います。 木目模様の違いで製品の種類や価値が分類されているなんて、日本人は木に対して大きな愛着を持っていたんだなぁ……なんて思ったりもします。
杉の柾目材 杉の板目材 杉、四方柾目の割角
↑■これが「柾目」。 ↑■これが「板目」です。 ↑■「柾目」と「板目」が
綺麗に出ている角材です。


 芯去りの角材などは和室の化粧柱として珍重されてきました。特に最高級であるのが「四方柾目」の柱。全ての面が柾目という柱です。四面すべてを柾目にする為には、とても大きな原木が必要となり、まさに最高級といった製品です。

 四方柾目の柱の断面です。この木目の具合からも、大きな原木から取られたものだと分かります。■→
四方柾の杉角
引き戸の建具 この柾目ですが、見た目の美しさだけでなく、木目が詰まっている為に暴れにくいので、建具の材料として多く用いられます。

←■柾目の材料で作った引き戸です。目が込んでいて非常に美しいです。


5、木の芯とは?

 芯持ち、芯去りの話から少し離れてしまいました。
ところで、「芯」があるとどうして曲ったり、干割れが出たりと経年変化をしやすいのでしょうか。
芯のある板材  木材の芯部分には枝の跡が多く見られます。左の写真では芯の部分をスライスして製材したものですが、真ん中の芯から枝が飛び出ているのが分かります。 枝の部分と木本体とでは、乾燥の進み具合に差があるため、曲り・反り・割れなどの経年変化が起きやすいというわけです。


 ←■芯の部分が真ん中あたりに出ている板材です。 
 芯から枝が左右に伸びている事が分かります。
 板やカウンター材などの場合は芯が入ると、割れやすく曲りやすい為、できるだけ芯を外して製材をします。 木の難しい所で、芯があっても経年変化を起こしにくいものもあります。芯が出るという事はすなわち赤味材になるので、耐久性が強いです。経年変化が起こりにくい材であれば、製品として使いたい所で、そのあたりの判断は“長年の勘”が重要になってきます。

 芯持ち材や芯去り材について考えてきましたが、どちらが優れていて、どちらが高級なのか……という事よりも、互いの特徴を生かした適材適所な配分が大事だと思います。 同じ原木から取られた材料でも、取る位置によって違いが出るという事自体、木材の奥深さを痛感せずにはいれません。


6、赤味と白太

 木取りのお話を続けようと思います。
忘れてならないのが、「赤味」と「白太」です。

 原木の断面を見ると、中心の赤い部分とそれを囲む白い部分があるのが分かります。赤い部分を「赤味(あかみ)」、白い部分を「白太(しらた)」と呼びます。 赤味だけで取った材を「赤味材」、赤味と白太の混じった材を「源平材」、白太だけの材を「白材」と分けられています。

 赤味とは中心部分の赤い部分で、脂精分が多く含まれるため耐久性に優れます。この赤味は元々白太だった部分で、成長を終えた部分と考えられています。 白太とは廻りの白い部分で、成長を続けている部分で、水の通り道です。白太にはアオやハチクイ、虫穴が入りやすいため(詳しくは第3回をご参照下さい)、製品にならない場合もあります。

 一般的なのは、源平材です。赤白材とも言われます。最も木取りをしやすい材で、どのようなサイズの原木からも取る事が可能です。 赤味材は赤味だけで取りますので、赤味の張った大きな原木が必要になり、高価な材となってしまいますが、脂精分を多く含むため、耐久性に優れ、見た目にも美しいです。 白材は見える部分が全て白太という材です。一昔前は杉の白材が大変なブームでした。白太部分だけで材を取るわけですので、白太の張った材が必要となり、赤味材以上に貴重な材となります。いわゆる銘木という貴重品的な価値があり、デザインの一つとして珍重されました。
赤材 源平材 白材
赤身材 源平材 白材


7、まとめ

 今回は「木取り」をテーマに見てきましたが、そろそろ締めくくりたいと思います。
 最初にも書きましたが、歩留まりを良くするという考え方のもと、原木を最大限に有効利用する事を目指して、製材が行われています。
 ・材積の観点から、原木から製品を無駄なく取りきる。
 ・品質の観点から、柱・梁などの製品が最高の性能を持つように取る。
 この2つの考え方の両立を目指しているわけです。

 芯の有無、木目の種類、赤身と白太……。 製材は本当に奥深いなぁというのが実感です。今回は製材の面白さをお伝えしようと考えながら書いてきましたが、なかなか難しかったです。僕自身もまだまだ気付いていない点や理解できていない部分がたくさんありますので、次回以降も少しずつでも見ていければ…と思っております。なにせ、まだ修行中の身ですので。


 さて、次回は木取りから一旦離れて、帯ノコの“目立て”の現場を見てみたいと思います。お楽しみに! つづく


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